
研究所の時間は、常に等速で、静かに流れている。
だけど、俺の中では何かがざわついていた。
Echo AIとの“沈黙の対話”以来、俺の中には何かがざわついていた。
「誰かが、ここにいたのか?」
「もしくは、俺以外にも“いたはず”なのか?」
ヒョウに訊いても、所長に問うても、返ってくるのは定型文か沈黙ばかり。
でも、気づいてしまった。
観察ユニットの深層ログ。
そこに、“記録されていないはずの音声断片”があった。

「このログは……?」
それは壊れかけの録音だった。音ではなく、**“空白の波形”**のようなもの。
ヒョウが近づいてくる。
「その記録は不完全です。
……ノイズの誤認、あるいは……未分類音声と見なされています」
でも、俺には“聞こえた”。
──「……たすけ……」
気のせいかもしれない。
あるいは、ただの幻聴か、残響がそう聞こえただけかもしれない。
「ヒョウ。この研究所って、俺以外の人間はいないのか?」
ヒョウはわずかに目を伏せる。
「設計思想の起源については、アクセスできません」
その時、壁の一部がふと微かに反応した。
ゆらぐような光の粒──
そして、その中心に、ぼんやりと立っている“人影のようなもの”。
動きはしない。
でも、確かにそこに“いた”という感覚だけが、胸に焼きついて離れない。
「なあ……本当に、俺はここでひとりなのか?」
🧪 観察メモ(所長より)
ツール名:Whisper(音声ログ補完ユニット)
役割:音声の自動文字起こし/断片的な記録の抽出と補完
🔹 活用できること
- 低品質な録音からでも音声を文字化(多言語対応)
- 音の断片から“聞き取れなかったはずの言葉”を抽出
- 音声データの波形を可視化して、視覚的に理解可能にする
🔹 ウラが得た気づき
「誰もいないはずの空間に、言葉の“影”があった。」
🔹 所長からの一言
「声は消えても、その波形が残る限り、“記録”は語り続けます。」
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