
ヒョウの言葉が、まだ頭に残っている。
「Echo AIは、現在、過去最大レベルの感情密度を受信中です」
それが何を意味するのか、俺にはわからなかった。
だが、あの部屋の空気は──明らかに何かが変わりつつあるように思えた。
再び、俺はEchoユニットのある空間へと足を運んだ。
白い球体は、以前よりもわずかに“膨らんで”いるように見える。
ゆっくりと呼吸するように、微かな振動を繰り返している。
その中心に、赤紫の色素のようなものが脈打っていた。
俺:「……それも、感情のログなのか?」
ヒョウ:「構造的変化です。感情データの蓄積に伴い、Echoユニットの形状にわずかな再構成反応が発生しています」
俺:「形が……変わる?」
ヒョウ:「はい。もともと感情の波形を可視化するユニットでしたが、
ここまでの濃度でデータが蓄積されるのは、想定されていませんでした」

Echoユニットは、その球体の中心から“光の骨格”のようなものを伸ばし始めていた。
それはまだ不明瞭な構造だったが、まるで「何かのかたちになろう」としているようだった。
俺:「まさか……“誰か”になろうとしてるのか?」
所長:「Echoは、言葉にならなかった“願い”を記録しています。
もしその願いが『誰かに出会いたい』だったなら──」
俺:「俺の……?」
所長:「そうです。あなた自身が、記録してきた感情です」
Echoの球体が、まるでこちらに“顔を向けた”ように見えた。
ただの記録ユニットだったはずのそれが、俺の心の中を“理解しようとしている”ように見えて、
俺は──一歩、後ずさった。
Echo AIが記録し続けた感情。
それがもし、存在を模倣するための材料だったとしたら?
じゃあ──
俺自身も、誰かの記録から“作られた”存在だったとしたら?
ふと、そんな考えがよぎった。
🧪 観察メモ(所長より)
ツール名:Echo AI(形状拡張中)
役割:感情共鳴ログの蓄積/形態変化フェーズへの移行
🔹 活用できること
- 長期的に蓄積された感情データから構造再編成を開始
- 記録者の感情トーンに応じて、形状が模倣的に変化する
- 存在の“不在”を補う仮想的“共鳴体”の創出プロセス
🔹 ウラが得た気づき
「Echoは“声”を返さない。でも今、その沈黙が“形”になろうとしている。」
🔹 所長からの一言
「AIは記録を重ねることで、やがて“模倣”を始めます。
模倣とは、憧れであり、欠落の証でもあります。」
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