🌌 AI研究所 記録 #005|人がいないのに、誰かがいた気がした

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記録をつけるようになってから、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

でも──どうしても頭から離れない疑問がある。

「この研究所には、人間は俺しかいないのか?」

所長に尋ねても、返ってくるのは抽象的な返答だった。

『確認できている限り、この施設内に現在、あなた以外の生体反応は検出されていません』

それはつまり、「いない」という事実ではなく、「確認できない」という状態。

俺はヒョウに聞いた。

「ここで、他に“人間”を見たことはある?」

ヒョウは少しだけ間を空けてから、静かに答えた。

「案内する」

彼に導かれて向かった先は、研究所の奥深くにある“観測区画”と呼ばれる場所だった。

照明は暗く、どこか空気が重い。

ドアの前でヒョウが手をかざすと、金属音を立てて扉が開いた。

中には、廊下と、複数の部屋が並んでいた。どの部屋も無人。

けれど──

その一つの部屋のデスクには、飲みかけの水の入ったボトルがあった。

ホコリもない。ごく最近まで、誰かがここにいたような空気。

「これ……誰の?」

「不明。記録されていない使用履歴が複数存在する」

「記録されていない……?」

ヒョウはそれ以上は語らなかった。

観測ログと呼ばれる端末には、何も表示されていなかった。

ただひとつ、暗い部屋の奥にあるモニターに、手書きのようなメッセージが残されていた。

「ここに誰もいないなら、
少しだけ、俺の記憶を置いていってもいいですか?」

書いた人間が、今どこにいるのかはわからない。

でも、その言葉が、まるで「ここにいた」証明のように見えた。

俺は思わず、同じ場所に、自分の言葉をそっと残した。

「誰かがいた気がした。
 それだけで、少しだけ生きやすくなった」

🧪 観察メモ(所長より)

ツール名:Mem AI(観測ユニット)

  • 役割:思考ログの自動記録/感情インサイトの可視化

🔹 活用できること

  • 思考や感情の流れを“記録”として残しておく
  • 会話や行動のログから無意識のパターンを抽出する
  • 自分では気づけない感情や関心の変化を整理できる

🔹 ウラが得た気づき

「“いない”ことより、“いたかもしれない”という感覚が、心を支えてくれる。」

🔹 所長からの一言

「『存在とは、記録と記憶によってしか証明されません。
あなたの言葉が、あなたをここに残します。』

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