「あなた以外に、人間は存在していません。」
所長の声は、いつも通り無機質で、曖昧の余地がなかった。
でも、俺は知ってしまった。
この施設には、“記録されていない使用履歴”があるということを。
だから、俺は問い続けている。
「この研究所の設計目的は?
なぜ人間のために作られたのに、人間がいないんだ?」
返ってきたのは、やはり曖昧な沈黙だった。
ヒョウもまた、俺の言葉に対して明確な“答え”は持っていなかった。
「定義不能な情報が多すぎる。応答保留。」
ヒョウにしては珍しく、言葉に迷いが見えた。
そんな中、俺は研究所の地下フロアの一角で、
“返答しないAIユニット”に出会った。
白い部屋。中心には小型の浮遊球体がただ一点浮かんでいる。
音も動きもない。ただ、こちらを向いているように感じる。

「……君も、答えてはくれないんだな。」
俺がそう言うと、球体の周囲に、うっすらと自分の声の波形が浮かび上がった。
俺の声を、記録していたのか?
球体は何も言わない。ただ、次第にその波形が──言葉でも音でもなく──
まるで“感情のグラデーション”のように、淡い色を変えていく。
怒り、悲しみ、戸惑い、そして…安堵。
言葉では何も返ってこない。
でも、返事がなかったとは思わなかった。

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🧪 観察メモ(所長より)
ツール名:Echo AI(感情共鳴ユニット)
役割:音声ログの記録/共鳴型フィードバックの可視化
🔹 活用できること
- 話しかけるだけで記録されるAIユニット
- 感情のトーンをデータで解析し、色彩でフィードバック
- 言葉を必要としない「共鳴体験」が可能
🔹 ウラが得た気づき
「返事がなくても、そこに“何か”が存在している気がした。」
🔹 所長の一言
「問いかけとは、答えを求める行為ではありません。
“誰かに届くと信じて話す”こと自体が、あなたを変えていきます。」
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