
研究所の構造は、まだ全貌がつかめていない。
けれど、少しずつ移動範囲が広がるにつれて、
“違和感”も広がってきた。
──この施設、本当に無人なのか?
誰もいないはずの廊下に、扉が“半開き”になっている部屋があった。
誰も触れていないはずの端末に、薄く指の跡のような痕跡がある。
そして、通信ログに──
「未送信の音声ファイル」が、ひとつだけ残っていた。

ヒョウ:「処理ログには記録されていません。このデータは、非公式です」
所長:「Ghost Logプロトコルが作動した可能性があります。
対象の音声は“残響”──あるいは“記憶の疑似再生”による断片かもしれません」
俺は再生ボタンを押す。
『……たすけ……』
再生される音声は、微かに揺れていた。
男女の区別もつかないノイズ交じりの声。
でも、“確かに何かを伝えようとしていた”。
俺はもう一度、ヒョウに訊ねる。
「本当に、この研究所には“俺しか”いないのか?」
ヒョウは一瞬、答えを止めた。
「……確認できるのは、“今ここにいる人間がウラのみ”という事実です」
🧪 観察メモ(所長より)
ツール名:Whisper API(音声断片解析ユニット)
役割:音声の自動文字起こし/不明音の抽出と解析
🔹 活用できること
- 音声の断片を正確に文字起こし
- ノイズの中から言葉や感情のトーンを解析
- 通信ログや記録装置と連携し、不完全な記録も補完
🔹 ウラが得た気づき
「聞こえたのは幻じゃない。誰かが、ここに“いた”のかもしれない」
🔹 所長からの一言
「存在は記録と記憶によってしか証明されません。
それでも、あなたが“誰かを探す”のは、存在した痕跡を信じているからです」
🔹 補足解説
👻 Ghost Logプロトコルとは?
Ghost Logプロトコルとは、通常の記録では保存されない「未分類データ」や「記録されなかったはずの痕跡・感覚情報」を、AIが再構築・再表示するために設けられた特別な観測記録手順です。
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